先日、タイムライン上でこんな話を見かけました。
要約すると、

プロ・レベルを維持できるか否かの懸かったマッチのカバレッジを読みたい人なんているんだろうか。
それよりもトップ8の懸かったマッチを読みたいのではなかろうか。

ということのようです。
何故そんな話が出るのか、というのは、先週開催された世界選手権の日本語カバレッジの土曜日の記事リストをご覧頂ければ概ねお分かりなのではないかと。

なるほど。
しかし、読者はカバレッジ記事にいったい何を求めているんでしょう。
斯く言うわたしも読者の一人ではあります。
わたしはカバレッジに何を求めているんだろう。
思いついたことを書き連ねてみました。


たぶん、世の中の記事には、

・ためになる (informative)
・おもしろい (entertaining)
・話題性のある (topical)

というような成分が含まれているんじゃないかと思います。
これはカバレッジ記事も然り。

ためになる、とはつまり、「ヴァラクートは青黒相手にどんなサイドボードをすればいいのだろう」とか、「全世界(の一部)を驚嘆させたKTNってどんなデッキ?」とか、そんなことが明かされている記事です。
読むことで、テクニックを学べたり、新しいデッキのアイディアが得られたり、読んだ後に実際何か役に立つことがあるようなもの。
読んで出る言葉は「なるほど」。

おもしろい、とはつまり、絶体絶命の状況からトップ・デッキで大逆転みたいなプロレス的楽しさがあったり、人情話が絡んでマッチ展開にドラマがあったり、ストーリーとして読んでて楽しいもの。
読んで出る言葉は「おもしれー」「そんなバカな」「やり過ぎだから」「これはヒドい」などなど。

話題性のある、とはつまり、上で挙がっているような、「なかしゅーはレベル8を維持できるか」とか「ラウンド17で39点が5人。落ちるのは誰だ?」とかそういう記事です。
一時的な好奇心や知識欲を満足させる効用があるもの。
読んで出る言葉は「へー」。

これらは決して排他的ではなく、このすべてを満たす記事も少なくないことでしょう。
とはいえ、informativeなマッチ・レポートというのは、なかなか難しいところがあると思います。
informativeな記事にはマッチ・レポートよりも論述の方が向いてますから。
わたしは、topicalかつentertainingなレポートが読めればそれで満足です。


さてそれで、わたしは「トップ8が懸かった」も「レベル8が懸かった」も、等しくtopicalな記事と感じます。
これは別に誰がトップ8に残るかが重要でないということではないですが、いずれにせよその日その場限りのtopicに過ぎないということです。
「へー」と思えればそれでいいです。
間違って「おもしれー」とか「なるほど」とか思えたら儲け物ですが、別にそれを期待したりはしません。

そして、わたしは英語が読めるので、「トップ8の懸かったマッチ」は、たぶん、BillやTimの公式のカバーで読めるだろう、と思います。
すると、別のライターが別のマッチをカバーして下さるのはありがたいです。
同じマッチのレポートを違うライターで読んで楽しめる、という域には到達してないですから。お互いに。
それに、後日翻訳が載るかもしれないですよね。今回は(まだ)ないみたいですけど。

まあでも、書く側としては、BillやTimがどのマッチをカバーするかということとは別に、日本語カバレッジの紙面をどう構成するか、という観点でマッチを選ぶのが正道ですよね。
日本語のカバレッジ記事しか読まない人だっているでしょうし。
となると、topicalなマッチについては、topic性の高さはひとつの選択基準になるでしょうか。
「トップ8」と「レベル8」。どっちが読者の興味を引くでしょう?

やっぱりここでは、「レベル8」が単なる「レベル8」ではなく、「日本人プロ・プレイヤーのレベル8」であるということが大きく作用するだろうと思います。

イチロー選手や香川選手が活躍している記事を読むと、楽しい気持ちがしますね。
何故かそれはわたしだけではないようで、そういう記事が載った新聞がいっぱい売られています。
イチロー選手や香川選手だけじゃなくて、藪選手や巻選手の話題まで漏らさず伝えてくれるメディアもあります。
いや、藪選手や巻選手には何ら含むところはないのですが。
つまり、日本人は、世界レベルで活躍する日本人の話が好きな国民性なんですね、たぶん。
中村プロはもちろんイチロー香川レベルですから、アメリカン・リーグ西地区の優勝争いとは全然関係なくても、NHKがBSでマリナーズ戦を中継してくれたりするのです。
それは、日本のメディアの報道としては悪くないような。
純粋なMLBファンならスカパーか何かで中継を見たりしますよね。

これらの中継は、何より、子供たちに与える影響が大きいと思います。
イチロー選手の姿を見てプロ野球を目指す子供がいたら、それはとても素晴らしいことです。
中村プロのマッチのカバレッジ・レポートを読んでプロ・マジック・プレイヤーを目指す子供がいたら、まあ、素晴らしいかどうかはちょっと判断に迷いますが、編集方針としてはありでしょう。

そういうわけで、日本人ライターの書く「なかしゅーはレベル8を維持できたか」な記事には間違いなく読者はいると思います。
わたしもファンの一人ですし。

そして、「トップ8」はこの世界選手権という大会のtopicでしかありません。
「レベル8」は、そのプレイヤーの通年の戦いの集大成です。
男子プロゴルフ・ツアー最終戦で、賞金王の懸かっているプレイヤーがいる3組のプレイと、そのトーナメントの優勝を争っているプレイヤーのいる1組のプレイ、どっちがtopicalか、という話に似ています。
テレビ中継だとどっちも写すんですが、たぶん賞金王争いの方がtopicとしてはデカいですよね。
翌日の見出しも、「△△賞金王 ××1ストロークに泣く」の大見出しの横に、「優勝は○○」と少し小さく書かれるでしょう。
もっとも、それはマジックで言えばPoYレースの話であって、あるプロがレベル8を維持できるかという話とは比較できません。
まあ、それを言えば、1組のプレイはシングル・エリミネーション入ってからのマッチであり、「トップ8の懸かったマッチ」は、それよりも話題性で劣るのはお互いさまです。
ともあれ、「トップ8」の方が「レベル8」よりも圧倒的に話題性が高いかというとそういうことでもないのでは。


じゃあ、「トップ8が懸かったマッチ」のレポートって重要度低いんでしょうか。
少なくともわたしはそんなに重視してません。
シングル・エリミネーション・ラウンドはさすがに見逃せないな、とは思いますが、予選ラウンドのマッチでこっちの方が大事とかなんとか、そんな気持ちにはあんまりならないです。
でも、「レベル8よりトップ8」というご意見の方がいる以上、そう思わない人もいるということです。

マリナーズ戦を見るのは野球選手だけではありませんが、マジックのカバレッジを読む人はほぼ全員マジック・プレイヤーでしょう。
もしかして、そういう点で違いがあるでしょうか。
わたしにとっては中村プロのマッチはドルトムント対シャルケですけど、もしかしてカバレッジの熱心な読者の少なくない割合が、Rマドリー対バルサ見せろゴルァなノリかもしれません。
(いやもちろんわたしだってクラシコは見たいですよ、念のため。)
この傾向はおそらく、俄かサッカー・ファンよりも、昔自分もサッカーやってたという人など、熱心なサッカー・ファンに強いであろうことは想像に難くありません。
今や世界は狭いですから、「トップ8」のマッチでプレイしているプレイヤーと面識がある、対戦したことがある、という人だっているでしょう。
そういう人にとってはチェルシー対マンUの方がよっぽどtopicalということはあり得ます。
おお、なるほど。それなら確かに「トップ8」は重要です。
そして、広く活躍しているプレイヤーほどよりそちらを重視するであろうことも推測できます。

となるとこれは編集方針の問題ですね。
そしてそれは今後日本でマジックをどのようにプロモートしていくかという側面とも関係するかもしれません。


結局何が言いたいかというと、

・ライターのみなさんお疲れさまでした。そして面白い記事をありがとう!
・ああいう紙面構成にするなら、公式カバレッジの翻訳も載せて不足の成分を補ったらいいと思うー。

でした。
まあ、いろんな意見があっていいと思うので、ひとつの意見に一喜一憂なさらぬよう。

コメント

listener
2010年12月14日13:42

気持ちのいい記事ですね(⌒-⌒)

今回の世界選手権でボクの最大の関心事は
「なかしゅーさんLv8到達なるか?」でした。

どんなデッキが勝ったかとかは興味ありましたが、
誰が優勝かとかほとんど興味なかったですw

re-giant
2010年12月14日15:43

はじめまして。記事タイトルに釣られました。
イチロー選手と並べられていたので、中村ノリ(プロ選手)かと思いました。

>プロ・レベルを維持できるか否かの懸かったマッチの
>カバレッジを読みたい人なんているんだろうか。

個人的には、なかしゅーさんのプロレベル維持が一番の興味でした。

ただ、世界選手権が色んな人の色んな視点で楽しまれているのはよいことなので、
他の視点で楽しんでいる方が求めている記事もあれば完璧だったのかもしれませんが、
全てを網羅するわけにはいかないですよね。難しいところです。

いく
2010年12月14日20:04

コメントありがとうございます。

>listenerさん
わたしも誰が勝っても別段・・・とか思ってたわりには決勝戦の中継にかぶりついて見てしまった!
マティニョンすごい引きしてましたなー。
タイムラインで「ワフォ・タパがトップ・デッキにタイタン積み込んでたぞ! Bribingだ!」とか言ってる人がいて軽く引いたでござる。

>re-giantさん
なるほど。こういうタイトルにすればいいのですね。
次から無駄に「平野綾」とか「市川海老蔵」とか入れてみます!
というかリンクさせて頂きました。インシャラー.

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

日記内を検索