先週のDaily MTGは「コモン週間」でした。
その中にこんな記事があって、PDCmagic.com(*1)のフォーラムでもネタにされ…取り上げられてました。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ftl/139
おそらくこんな記事に興味を持つ日本人はわたしだけでしょうなー。(*2)
というわけで、誰得ですけど、読みながら訳してみました。
チョサッケン的にはもちろん問題あるので、できれば当局にはナイショにして下さると助かります。

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コモン皇太子(*3)

――“From the Lab” by Noel deCordova 2011年4月21日(木)

ようこそ研究室へ。毎週木曜日はちょっといいシナジーの日でしたね。今日ご紹介するのは、黒だけで成立するシナジーです。金とか銀とかはお呼びじゃないんです。

始める前に、ちょっとだけバザールゲート事件について触れておきますか。つまり、先週の記事でぼくがやらかした間違いのことですけど。多くの方から《バザールの交易商人》では《霧消の場》を対戦相手に押し付けられないとご指摘頂きました。エンチャントですからね。そりゃそうだ。これはあのデッキにとっては致命的欠陥です。

まあ、間違いは起きるものですが、今回はぼくの記事が台無しでした。ぼくが実際にはあのデッキを作ってないこともバレちゃいましたね。もっとも先週の記事は「読者からのお便り特集」だったわけですけども。あのデッキの基本的なアイディアはいいと思いましたし、機能するだろうと思っちゃったんですよね。ジョニーが陥る古典的な罠です。多くの方のご指摘の通り、《液鋼の塗膜》を入れればコンボは成立します。間違えちゃったにも関わらずいろいろ考えて下さってありがたいです。

ぼくはそのことでそんなに落ち込んでるわけでもないので、そろそろ行きましょうか。 (まあとにかく、取り繕うには書くしかないわけですけど。)

てなわけで「コモン週間」号の始まりです。

■黒シンボルの行進

コモンは偉大なり。Mark Rosewaterがデザイン関連の記事で一度ならず言ってるように、どのセットであれ、コモンこそ最も重要です。Rosewaterの記事を読めば読むほどカード・デザインが分からなくなってる気はしますが、それはさておき。一般的に言って、マジックのセットを理解する意味では、黒シンボルのカードの果たす役割は大きなものがあります。絶賛公開中の「新たなるファイレクシアのメカニズム」(*4)をご覧下さい。新セットのカードがいくつかプレビューされてます。「コモン週間」に合わせたものかどうかはさておき、それらはすべてコモンです。見たらびっくりしますよ。(色つきアーティファクト再臨!)

今週ぼくはあるチャンレジをすることにしました。いつもならそれはこんな感じなんですが。「ジョニー・デッキを作れ」。今回はしかし、二つの重要な制約を課すことにしました。第一に、コモンだけを使うこと。第二に、スタンダードのカード・プールの範囲でやること。このウェブ・サイトで昔Nate Heissが同じようなことをやってた(*5)んですよ。当時のスタンダードは「ミラディン」(オリジナルの方だよ、オチビちゃん) シーズンで、「オンスロート」ブロックも使えました。Nateは親和(基本土地)のカード (つまり《絡み森のゴーレム》とか《尖塔のゴーレム》とか) は必然的に高い点数で見たマナ・コストを持つことに注目しました。「スカージ」(「オンスロート」ブロックの第三セット) にはたまたま点数で見たマナ・コストに関するミニ・テーマを持ったカードがありました。例えば《流れ込む知識》はいっぺんに6枚7枚引けるドロー・カードです。うまくいけばゴーレムも《流れ込む知識》もしこたま引いて、《時間の亀裂》で対戦相手のパーマネントをごっそり手札に戻してビッグ・ターンを締め括れることでしょう。当時はこのいかれポンチなデッキがぼくの頭にこびりついて離れなかったものでした。

(原文ではここに《絡み森のゴーレム》《流れ込む知識》《時間の亀裂》のカード画像が挿入されています。)

それに触発されてぼくもやってみることにしたのです。現在ただいまのスタンダードは、「ゼンディカー」ブロック、「基本セット2011」、それに「ミラディンの傷跡」の最初の2セットから成っています (「新たなるファイレクシア」は今週には僅かに間に合わず)。これらのセットのコモンで、何かジョニってるコンボってないんでしょうか?

ぼくはGatherer(*6)を見て過ごすのが好きです。新しいセットが出るたび、その全てを脳内にダウンロードするのは基本です。ただしそれがいい方法かっていうと話は別で、どっちかっていうとコーン・フレークを手で食べるのに近いです。どうやったって少しは牛乳がこぼれますよね。カードでも同じです。ぼくは自分がカード名と機能をちゃんと覚えてると思いたいんですけど、生憎とコモンを覚えるのがいちばん大変です。派手なアンコモンやレアの方が覚えやすいんですよね。だからスタンダードのコモンを見て回るところから始めたのは若干メンドウでした。

(原文ではここに《草茂る胸壁》のイラストの拡大画像が挿入されています。)

だがしかし、《草茂る胸壁》を見つけたときには魂が震えました。マナの出る緑の2マナの防衛持ちの錚々たる系譜に連なるカードですが (先達には《ぶどう棚》や《根の壁》がいます)、中でも《草茂る胸壁》は最高の一枚でしょう。単独でも1マナが出ますが、もう一枚胸壁を出せばたちまち緑マナの洪水が始まります。

(原文ではここに2枚の《草茂る胸壁》のカード画像が挿入されています。)

胸壁で大量のマナを出したいですね。てことは他の防衛持ちも入れる必要があります。どっかにぼくの2条件を満たすのがあるでしょうか? 《絡み線の壁》(密かにリミテッドの必需品) はばっちりです。《補強された防壁》もですね。めちゃくちゃ使われてませんけど。

防衛持ちが揃って危険から守ってくれるようになったところで、いよいよ状況を仮定します。ぼくの《草茂る胸壁》から、そう、5マナ出るとしましょうか。それはそれでいいとして、何かこう、つまり、繰り返しアンタップしたりなんだりできないもんですか? 今回の常軌を逸した制約を満たすカードを使って、ですけど。実は、できます。リミテッドですら使われない《ミラディン人のスパイ》さんです。Noelランドでは「注目のジョニー・カード」としてマークされてるんです。この手のカードはぼくのようなのがやってきて切り刻まれるのを待ってるんですよ。

(原文ではここに《ミラディン人のスパイ》のカード画像が挿入されています。)

さて、《ミラディン人のスパイ》でぼくの《草茂る胸壁》をアンタップできるようになりました。唱えられるアーティファクトがいっぱいあればの話ですが。しかし、どうやってそれを保証したらいいでしょう? さすがにもう、条件を満たしつつぼくの作りかけのイカれたデッキにぴったりハマるカードなんてないでしょ? 残念、不正解です。それは、あらゆるリミテッドの感染デッキで常に切り札であり続けたカード、《死体の野犬》です! (確かに今日はちょっとリミテッドに言及することが多いですね。だけど、リミテッドはコモンをプレイする機会の多いフォーマットだということは言えます。ほら、テーマに符合するでしょ。)

まあ、もうちょっと付き合って下さい。《死体の野犬》が1枚手札にあって、もう1枚が墓地にあれば、胸壁からマナを出して手札から唱えてスパイで胸壁をアンタップしつつ2枚目が手札に戻ります。じゃあそれを5倍の速さで言ってみましょう。

(原文ではここに《死体の野犬》のカード画像が挿入されています。)

無限ループさせるにはもひとつピースが必要です。野犬を生け贄に捧げるものが。それでこのサイクルは永遠に続きます。ぼくのバカげたほど制約されたカード・プールに、スタンダードのコモンの生け贄装置はあるんでしょうか? データベースにぼくのリクエストをタイプして《錆びた斬鬼》が出てきたのを見たときは目玉が飛び出しました。《錆びた斬鬼》!!! ありました無限コンボ・パーツ。むしろ俺の嫁。

(原文ではここに《錆びた斬鬼》のカード画像が挿入されています。)

まとめると…、野犬2匹がそれぞれいるべき場所にいて斬鬼が戦場にいるとします。無限マナを出すには、5体の防衛持ちがボードにいるか (すると《草茂る胸壁》から(緑)(緑)(緑)(緑)(緑)が出るので、一回につき(緑)が得られるわけです)、または3体の防衛持ちと2体の《ミラディン人のスパイ》がいるか (すると胸壁を2回アンタップする間に(緑)(緑)(緑)を出せます) でないといけません。そしたらコンボ・スタートで、野犬を繰り返し唱えつつ、斬鬼で生け贄にし続けます。

これで緑の無限マナが出ました。で? 通常コモンには(X)呪文は印刷されません (少なくともゲームを決めるようなのは…《腐れ落ち》には悪いけど)(*7)。がしかし、またもや素晴らしく適応能力に長けたカード・プールが応えてくれます。今度は「エルドラージ覚醒」の愛くるしい発動者サイクルです。こいつらはこうしたコンボのマナを注ぎ込むのにちょうどよくできてまして、例えば《野心の発動者》は胸壁の無限マナを無限サイズのトランプル持ちに変換してくれます。わーを。

(原文ではここに《野心の発動者》のカード画像が挿入されています。)

しかしながら、このデッキには多くのサポートが必要です。何故ならこのコンボはそう簡単には揃ってくれないからです。《死体の野犬》が2回に1回しか役に立たないというのも感心しませんし、序盤にもパッとしたのが欲しいところです。《胆液爪のマイア》は完璧につながるカードです。強力なアタッカーでもブロッカーでもあり、野犬で再利用するのにも良さそうです。

(原文ではここに《胆液爪のマイア》のイラストの拡大画像が挿入されています。)

《草茂る胸壁》のほかにもスパイで起こすカードが欲しいところですね。カード・ドローは間違いなく必要です。すると《無謀な識者》が完璧にフィットするじゃないですか。このデッキなら金属術は簡単に達成できるでしょうし、コンボ成立前の防御手段も必要なので、《ヴィダルケンのセルターチ》を何枚か入れることにしました。締めくくりに強力なバウンス呪文の《乱動への突入》を入れましょう。

(原文ではここに《胆液爪のマイア》と《無謀な識者》のカード画像が挿入されています。)

感染、防衛、金属術に、デッキの最大ポテンシャルとしてイカれた無限コンボを内蔵した狂気の混成デッキが完成しました。ぼくはPauperの環境にはそれほど詳しくはありませんが、このデッキはたぶん何度かは分からん殺しできると思います(*8)。それが叶わないとしても、とにかく今回のぼくのチャンレジが成功したことに疑いはありません。

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「小紋の扇子」(*9) コモンのみ

メイン・デッキ 60枚
2 《進化する未開地/Evolving Wilds》
6 《森/Forest》
4 《ハリマーの深み/Halimar Depths》
6 《島/Island》
4 《カルニの庭/Khalni Garden》
――土地22枚

4 《死体の野犬/Corpse Cur》
4 《胆液爪のマイア/Ichorclaw Myr》
4 《ミラディン人のスパイ/Mirran Spy》
4 《草茂る胸壁/Overgrown Battlement》
4 《無謀な識者/Reckless Scholar》
2 《補強された防壁/Reinforced Bulwark》
3 《錆びた斬鬼/Rusted Slasher》
2 《ヴィダルケンのセルターチ/Vedalken Certarch》
4 《絡み線の壁/Wall of Tanglecord》
3 《野心の発動者/Wildheart Invoker》
―――クリーチャー34枚

4 《乱動への突入/Into the Roil》
――その他の呪文4枚
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今日のコラムを楽しんでもらえたら幸いです。来週は「新たなるファイレクシア」ですね! それまでごきげんよう!


訳註

1 「PDC」というのは「Pauper Deck Challenge」の略で、PDCmagic.comというのはあらゆるコモン単フォーマットを愛するユーザが集うコミュニティ・サイトです。わたしも常日頃お世話になっています。
http://pdcmagic.com/

2 わたしは主にスタンダード・コモン構築というめちゃくちゃニッチなフォーマットをプレイしています。オンラインだけですが。週に2回、30人規模のトーナメントに出て、一応それなりに成績を残していて、だいたい毎シーズン、ワールドにシードされて招待されたりしています。でも日本人がほとんどいないので寂しいんですなー。読む/訳す前は、この記事を訳したりしたら誰か興味を持ってくれるかもしれないと思ったりもしたのですが、読んでる/訳してる途中でダメだこりゃと思ったのはナイショ。

3 原題は「Common Courtesy」。「礼儀」とかそういう意味です。全然訳になってないじゃん。ま、そうなんですけども。マジックには、名前に「common」が含まれるカードが過去に2枚だけ印刷されてまして、《Common Courtesy》はそのうちの一枚です。「Unglued」ですけど。原題もただそれだけの理由で付けられていて、記事の内容とは全然関係ないんですよ!
http://www4.atpages.jp/kakoiku/carddb.php?lang=ja&show_card=Common+Courtesy

4 http://www.wizards.com/magic/tcg/article.aspx?x=mtg/tcg/newphyrexia/mechanics

5 http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/nh47

6 Wizards社が誇るオンライン・オラクル・データベース。「ミラディン」より古いカードの日本語版データが載ってなかったり、制限/禁止カードの情報が微妙に古いのはご愛嬌。というかわたしのブログを読んでるのにGathererを知らないってこともないかとは思いますが。
http://gatherer.wizards.com/Pages/Default.aspx

7 感染デッキの《荒々しき力》を忘れとりゃしませんか。確かにあんまりデッキに入ることは多くはないですが。

8 いやー、ムリでしょう。Pauperはおろか、Standard Pauperでも、ティア1はどれもこれもガチです。こんな低速コンボ・コントロールが予選を抜ける余地はありませんなー。とはいえ今週の大会で誰かが使ってたら褒めてあげたい。

9 原題は「Common Nonsense」。「Common Sense」という、「常識」という意味の英語があるんですけど、それに引っ掛けた駄洒落です。そんなのいちいち訳してられないんですなー。

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